啓発絵本「かなちゃんのこころ」について     


大阪市教育委員会の取り組みで、「人権絵本原作コンクール」があるのを知り、
話せない子どもを題材としたお話を作り応募しました。

お話は「こうしましょう。ああしましょう。」と指示的な内容ではなく、
まず気づき、自分に何が出来るか考える。そして出来そうなことから実行する。

そんな気づいて考えることができるきっかけとなることを願いながら作成しました。


では、大阪市教育委員会 生涯学習センターより転載の許可をいただきましたので、
こちらにお話の全文を載せます。
尚、このお話は第11回「はーと&はーと」絵本原作コンクール入選作品集にかわいい挿絵付きで載っています。

(後日加筆)
この入選作品集は現在プレゼント募集中です。(2009年6月1日時点)
詳しくは、いちょうネット(大阪市生涯学習情報提供システム)サイト内 「はーと&はーと絵本」をご覧下さい。

2009年5月13日 はは     


かなちゃんのこころ


三年生になって一週間たつというのに、かなちゃんはまったくおしゃべりしません。
先生によばれても、へんじもしないのです。
「かなちゃんと話したことある?」
わたしは、かなちゃんと二年生の時同じクラスだったさくらちゃんに、聞いてみました。
「一年の時も二年の時も、ず−っと話さなかったよ。一度も声聞いたことないもん。」
「えっ、ず−っと?」
わたしは、とてもふしぎでした。

ある日、ピアノ教室のかえりに、楽しそうな女の子の声が聞こえてきました。
「おかあさん、見て見て〜!」
かなちゃんが、おうちの庭でフラフープをして遊んでいたのです。いつもとまったくちがうかなちゃんに、わたしはビックリしました。

「かなちゃん。」
わたしは、かなちゃんに声をかけました。でもかなちゃんは、わたしを見ると、お家の中に入ってしまいました。

次の日学校で、わたしはかなちゃんに聞いてみました。
「かなちゃん、どうしていつもしゃべらないの?」
「・・・」かなちゃんは、だまったまま。
「かなちゃん、きのうしゃべってたじゃない」
「・・・」それでも、かなちゃんはだまったまま。    

だまっているかなちゃんに、わたしはイライラしてきました。
「かなちゃんに、何聞いてもむだだよ。ぜったいしゃべらないから。それより、いっしょに外で遊ぼうよ。」と、さくらちゃんが言ってきました。
「へんな子」
わたしはそう言って、さくらちゃんと校庭へ遊びに行きました。

その日の夜、わたしはおかあさんに、かなちゃんのことを話しました。おかあさんは、しんけんな顔で言いました。
「かなちゃんは、わざと話さないんじゃなくて、どうしても話すことができないんだと思うよ。おかあさんのクラスにも、そういう子がいたの。かなちゃんも自分でどうして声が出ないのか、わからないんだと思うよ」
おかあさんは、学校の先生をしています。

「だれだって、大きなぶたいに立つと、ドキドキするよね?かなちゃんには、きっと学校ぜんぶが、そんなふうにかんじるのかもしれないね。かなちゃんがドキドキしないように、かんがえてあげればいいと思うわ。」

それからは学校で、かなちゃんのことが、気になってしかたがありませんでした。
かなちゃんは、いつも自分のせきに、ただじ−っとすわっていました。じゅぎょう中も休み時間も。トイレはがまんしているのかな。気分がわるい時もがまんしているのかな。声が出ないってこまるよね。みんな気づかなくてこまるよね。

かなちゃんに、この前ひどいことを言ってしまった・・・。わたしは、かなちゃんのこころの中をかんがえると、むねがチクンとなりました。

昼休みに、わたしはかなちゃんに、そっと聞いてみました。
「かなちゃん、この間ひどいこと言ってごめんね。
かなちゃんは、コクンとうなずきました。     

わたしは、かなちゃんが答えてくれて、うれしくなりました。かなちゃんといっしょにいたいと思いました。
「かなちゃん、いっしょに外で遊ばない?」

でも、かなちゃんはだまったままでした。
「いっしょにあそぶのいや?」
かなちゃんは、首をよこにふりました。

わたしは、かなちゃんがお家の庭で、フラフープをしていたことを思い出しました。
「かなちゃん、いっしょにフラフープしようか?」
かなちゃんは、すぐにうなずきました。少しわらっているように見えました。

わたしは、うれしくなりました。かなちゃんのこころの中が、少し見えたような気がしました。
「じゃあ、今からフラフープをかりにいこう!」
かなちゃんとわたしは手をつないで、いっしょに走って行きました。

大阪市教育委員会第11回(平成20年度)「はーと&はーと」絵本原作コンクール 佳作作品

※入選作品集では、縦書きとなっているため、数字は漢数字を使っています。修正せずにそのまま転載します。
使用される場合は、大阪市教育委員会の出典であることを明記してください。